ズルイ
なんで、そんな顔するの。
どうして、そんなこと言うの。
ずるいよ、舞美ちゃん。
***
「いやさー、なんてったってシャンプー楽だよね。切ってよかったなー、ホント」
ほとんど独り言のようなその呟きに、あたしは背中を向けて荷物の整理を始めていた。
舞美ちゃんは濡れた髪をわしゃわしゃとかきあげて、犬のようにぷるぷると頭を振る。
ベッドに放り投げられていたタオルを渡すと、目を細めてありがとうと言われた。
舞美ちゃんが髪を切ったのはつい先日のことだ。
切ったといってもほんの数センチじゃなく、それはもうばっさりと。
あたしより長かった舞美ちゃんの髪は、今じゃ肩くらいの長さしかない。
一番驚いていたのはえりかちゃんだった。
℃-uteを卒業した今じゃもう会える機会は少ないけど、ちゃんと連絡は取り合ってる。
電話口の向こうでえりかちゃんの残念そうな声が聞こえたけど、そんなに落胆してるわけじゃないんだと思う。
どっちにしたって、舞美ちゃんに変わりない。
ただ少し、きざな言葉が似合うボーイッシュな舞美ちゃんになっただけだ。
「あいりいー」
ほら、今だって。
長いあたしの髪を掬い取られて、乾ききらない毛先にドライヤーの風をあてられる。
自分の髪すら乾かしてないのに、あたしの髪を乾かそうとしてくれてるらしい。
濡れた舞美ちゃんの短い髪から雫がぽたりと垂れる。
近くにある舞美ちゃんの頬にそれをぺたりと付けると、嫌がらずにへらへらと頬を緩ませる。
「いいよ、ほっとけば乾くし」
「だめだよ。愛理の髪、綺麗だから」
「舞美ちゃんだって綺麗だよ」
「や、あたしはもう切っちゃったし。このくらい痛んでも、どうってことないでしょ」
ドライヤーの風が頬にあたる。ぎゅっと目を瞑ると、優しく髪を指でとかれる。
触れてくる舞美ちゃんの手が気持ちよくて、ついうとうとしてしまいそうになる。
どうってことない。そう、どうってことないはずなんだよ。
気付かないふりしてたのに。たぶん、舞美ちゃんが髪を切っちゃったせい。
いつもの優しい笑顔が、ほんの少し違って見える。あたしの知らない、舞美ちゃんがいるみたい。
そんなの有り得ない。だって、今までずっと一緒にいたんだもん。
舞美ちゃんの隣に、えりかちゃんがいなくなった今も。
あたしは、舞美ちゃんの一番近くにいるはずなのに。
あたし、知ってるよ。
舞美ちゃんが髪を切った理由。
「こっちおいで、愛理」
ぽんぽんとシーツを叩いて、そばに来るように促される。
ああもう、だめ。こんな状況で、冷たくすることなんて、出来ない。
もぞもぞと近くに寄ると、いつもより近くに舞美ちゃんの体温を感じる。
こういうのって、どうしたらいいんだろう。