小説
雨が降る。わくわくとした期待を胸に、愛理は曇り空を見上げてくんくんと空気の匂いをかぐ。 湿り気を帯びた空気はじとじとしていて、じきに雨が降ることを知らせていた。 会いたい人がいた。雨に打たれても太陽のように笑うあの人が、今日も愛理を待ってい…
雨が降った日は愛理にとって特別な日。先輩と一緒に帰れる日だった。 今日も部室の前で待ち合わせをして、気休め程度に窓を見て前髪や身なりを整える。 ふと違和感を覚えて後を振り向くと、そこにいたのは愛理が何度か目にしたことのある人物だった。 名前は…
後から知ったのは、あの先輩は陸上部の主将でそれもこの学校じゃ割と名の知れた人物だということだった。 確かに背が高くてスタイルも良く、美人な人だった。その話を聞いて納得はしたが、驚きの方が勝る。 雨の中エナメルバッグを肩に提げて猛スピードで走…
冷たい冬の風と共に、一粒の雨が愛理の頬をうちつける。 空を見上げるとどんよりと曇った空から次々と雨が降り注ぎ、あっというまに アスファルトを黒々とした色に変えていく。 朝の天気予報はしっかりチェックしたのに、予報は見事外れてしまったようだ。 …
「もも、遅いねー」 「うん」 「どこで油売ってんだろーねー」 「……うん」 「うち、探してくる」 みやは短めのスカートを翻して、ぱたぱたと廊下を走っていく。 あたし、ももの居場所知ってるよ。 そう言おうとした唇は何故か震えて、言葉を吐き出すことが出…
つらい時はいつも傍にいて、同じ気持ちになって涙した。 そんな風にして増えた思い出は、今でも塗りつぶされることはなくて。 繋がらない電話も返事のないメールも、どれもこれもあたしを切なくさせるだけだけど。 留守番だって、きっと聞いてくれてると思う…
ついったーのつぶやきがきっかけで、わたくし善行とdendro*beamの平山マコさんとのコラボが実現しました! アリスの映画も4月に公開ということで、Buono!やハロメンをアリスの世界に巻き込んでみましたw 勿論完全にネタですし原作とはかなり形を異にしてい…
好きになるのは簡単なのに。 どうしたって、キライになんかなれないよ。 何もかも上手くいっていると思っていた。 たぶん、あの人が現れるまで。 「ごめん、今日なっきぃと帰るんだ」 栞菜はぱん、と手を合わせて深々と頭を下げる。 あたしはいいよいいよ、…
「舞美ちゃん、それスペルちがう」 「…えー、あーる、いー…」 「early」 「そうそう。それが言いたかったの!」 「うそぉ」 「ホントだもん。あーも、愛理年下のくせに頭良すぎる」 「…ふつうだよ」 背伸びしてるだけ。ほんとうは、少しでもあなたに良く思わ…
「愛理」 どうしていいか分からなかったのは、最初だけで。 近付いてくる唇に合わせて目を閉じれば、優しい手のひらがあたしの髪を撫でてくれる。 名前を呼ばれて伏せていた目を開けると、舞美ちゃんが肩のあたりにぐりぐりと額を 押しつけてきた。 何回か軽…
隠し事なんて苦手だから、秘密にしててもすぐにばれた。 それでもなるべく人目を避けたくて。 毎日こそこそ友達の輪から抜け出して、目指すは一目散にあの人の待つ下駄箱。 一秒一分さえ惜しいと思える。こんな風に心が躍るのは、いつぶりだろう。 すれ違う…
*** 結局、昨晩はほとんど眠ることが出来なかった。 やっぱり一人で眠ればよかったと思う。過敏になってるのは、あたしだけなんだろうけど。 舞美ちゃんはベッドの上でむずがるあたしを起こして、既にメイクを終えていた。 「おはよ、愛理」 むかつくくらい…
なんで、そんな顔するの。 どうして、そんなこと言うの。ずるいよ、舞美ちゃん。 *** 「いやさー、なんてったってシャンプー楽だよね。切ってよかったなー、ホント」 ほとんど独り言のようなその呟きに、あたしは背中を向けて荷物の整理を始めていた。 舞美…
違う。べつに、誰が悪いとかじゃなくて。 責めたいわけじゃない。フツーにしてればいいだけなのに。 落ち着かなくなって、あの場から逃げ出してきしまった。梨沙子に悪いことをした。あんなことしたら、あたしが怒ってると思われる。 いや、怒ってないわけじ…
むかむかとする心を落ち着かせようとする。けど、視線は向こうに注がれる。栞菜の肩に置かれた手。そのすぐ近くにある、梨沙子の笑顔。 楽しそう。いつもなら、あたしもその中に入っていけるのに。 栞菜とそういう関係になってから、不思議とそれが出来なく…
『プラスチック・ハート』(Airi×Kanna) 視線の先にはいつも君が居て その当たり前に、いつまでも甘えていた 「愛理ー」 背中にもたれかかるいつもの温度 あったかくて、気持ちいい 好きだって伝えたら、栞菜はなんて言うだろう びっくりした顔をしながら、…
「えり、えり」 「ん?」 「…えーっと」 「なに?」 「……何言おうとしたか、忘れちゃった」 「はぁ?」 「待って待って、思い出すからっ!」 「待ってって…あたし、愛理の次だからもう行かなきゃだよ」 「すぐ思い出すから、ちょっと待って!」 「あと5秒ね…
「…近いね」 「うん、近い」 「もうちょっと離れる?」 「んーん、大丈夫」 お互いの頬が触れるほど近い距離での撮影は、なんだか気まずかった愛理は気にしてない様子だったけど、本当はあたしより緊張してたん じゃないかってくらい、繋いだ手が熱くて まじ…