電話の後で僕が泣いたことをいつまでも君は知らずにいる



つらい時はいつも傍にいて、同じ気持ちになって涙した。
そんな風にして増えた思い出は、今でも塗りつぶされることはなくて。
繋がらない電話も返事のないメールも、どれもこれもあたしを切なくさせるだけだけど。
留守番だって、きっと聞いてくれてると思うから。追いメールなんてせずに、待ってるから。



「あー、もしもし。あたし、栞菜。うん、そう。…うん、うん。そっか、ありがとう」



仕事、忙しいのかな。最近コンサート続きだったもんね。


心の中でそんなことを思いながら、申し訳なさそうな声色に耳を澄ます。
けれど、すぐに明るい声が聞こえて、来週のオフに遊園地に行こうと誘われた。
断る理由なんてないからすぐにいいよと返事をすると、子供みたいにはしゃいで
相変わらず変な調子の電話が続いた。


あたしはまだ、愛理の中にいるんだ。そう感じることが出来るのは、幸せなことだと思う。
もう戻ることの出来ない過去から抜け出せず片足をつっこんだまま、中途半端にあの子を
想うのは止めようと思っていた。
けど、そんなことは無理だった。
途切れ途切れになりがちな連絡のやり取りでも、あたしはあの子を忘れることなんて出来なかった。


『ねえ、栞菜』
「ん?」
『もう、一年も経っちゃったんだよね。栞菜がいなくなって』


溜息交じりの、それでいてくすくすとした笑い声が受話器から聞こえる。


「…早かったよね」
『自分で言う?』
「だって、ほんとにそうなんだもん。毎日学校通ってるのが、不思議なくらい」
『栞菜はそうかもしれないけどさあ。あたしにとっては、長かったなあ』


ベッドに寝転がったのか、シーツが擦れる音がして愛理の大きな溜息がそれに続いた。
何て返事をすればいいのか分からなくて、そうだねと呟くと不満そうな声で名前を呼ばれた。


『…ねー、栞菜』
「何?」
『ほんとに、戻って来ないの?』


愛理には、夢見がちなところがある。
到底現実にならないことでも、どうにか叶ってほしいと直向に願うのが癖のようだった。
そのくせ年下のわりにしっかりしてるところもあって、やたら冷めたことを言う事もあった。



けど、あたしの知らないうちに、愛理はどこか子供っぽくなった気もする。
あたしがあの子の傍を離れたあの日から。たくましく見えていた姿が、小さくか弱く見える。
それも、あたしのせいなんだ。取り返しのつかないことをして、皆を悲しませた。
あたしなんかより、愛理のほうがきっと背負ってるものは大きい。


「……もう、戻らないよ」


出来るだけ淡白な声でそう呟いたつもりでも、携帯を握る手は小さく震えていた。
愛理もそれを感じ取ったのか、わざとらしく調子の良い声で、分かってるよと鼻をすすりながら
答えた。


ごめんね、愛理。
何度口にしたか分からない言葉を呟いて、あたしは二度泣いた。


























彼女がいなくなったことをまだ引きずるヲタです。粘着です。
それでも好きだったんだ…あの時の℃が。今でも好きですけども。
一年は早いなぁ。今でも元気でやってくれていることを願うばかりです。